犬の体表腫瘤切除手術

体表腫瘤

体表腫瘤は色々な部位に様々な大きさで形成されます。若い個体よりも老いた個体の方が発生率は高いことが知られています。また、切除した組織を病理組織診断することで良性の腫瘤か?悪性の腫瘤か?判別することになります。 基本的に手術前は血液検査と胸部レントゲン撮影を行っております。

摘出前の針生検と摘出後の組織診断

一般的に手術前に腫瘤に針を刺して、どんな細胞で腫瘤が構成されているのか?針生検を行います。針生検後、標本作成して顕微鏡で細胞を確認します。しかし、細胞間の結合が強い場合や、腫瘤の産生物が多いなどの理由で診断に有効な細胞を採取できないこともあります。 ただし、一般的に腫瘤摘出した方が良いか?を判断するには非常に有効な検査です。

そして、この作成した標本を病理診断医に確認してもらいます。 これはより正確に診断するためです。しかし、多くの標本に診断がつけられ報告されますが、中には「組織摘出してみないと正確な診断はできません。」と報告されることもあります。その場合は、手術して摘出した組織を病理組織診断することになります。

次の症例は、上記の通り針生検を行いましたが、腫瘤の産生物のため判断できませんでした。そのため腫瘤を摘出後、組織診断を依頼した症例です。この症例は、9歳雄の雑種です。下の写真は手術前の状態です。剃毛した領域の中央に腫瘤を認めます。

次の動画は手術1週間後の抜糸終了時の動画です。特に変わりはありませんでした。

組織診断は約10日後に結果が戻ってきました。多くの検体が10~14日後に戻ってきます。そして、組織診断の良いところは、針生検標本では解らなかった検体も診断ができることがほとんどです。また、腫瘤組織周辺の状況など多くの情報が得られます。

小さい腫瘤と大きな腫瘤

小さい腫瘤は大丈夫? 大きな腫瘤は悪性ですか?と質問を受けることがしばしばあります。「一概には言えませんので針生検をしてみては?」とお答えさせて頂いてます。針生検後、作成した標本を見て「切除したほうが良いのか?」「様子を見た方が良いのか?」判断しています。

「先生、結構大きいのに様子を見ていて良いのですか?」あるいは「こんなに小さいのに、本当に切除した方が良いのですか?」 この様な場合は病理診断を依頼しています。確かに、切除の判断は腫瘤の大きさも一因ですが、針生検で採取された細胞をみて判断することが殆んどです。 しかし、どんどん大きくなってきたなど場合は、生活の質にかかわることや細胞分裂が盛んなことを示しているという理由で切除となるケースも多いです。

次の症例は非常に小さな腫瘤ですが、すぐに切除したケースです。症例は6歳、雄のフレンチブルドックです。最初、どこに腫瘤があるのか?解りませんでした。とても小さいが、針生検することになりました。標本作成後、すぐ切除した方がよいと判断しましたが、念のため病理検査に依頼することにしました。本当に麻酔して切除した方が良いのか?確かめるためです。病理診断後も切除した方が良いことが解りました。

病理診断から少し大きめの切除が望まれることが解りました。次の写真が切除後の写真です。

腫瘤の経時的組織変化について

次の症例は暫く、体表にリンパ液の貯留がゴルフボール大存在するだけでありました。リンパ液の軽度貯留のみでその沈査も病理検査を依頼した結果特に変化がありませんでした。あまり変化がないので安心していましたが、暫くして経過観察のために来院した時には、腫瘤はすでにソフトボール大より大きくなり、貯留液も血液を多量に含んだ性状に変化していました。そのためすぐに手術になりました。下の動画は腫瘤切除前の状態です。腫瘤内は血液を含む腫瘤内側は腫瘍細胞が複雑に内張りする構造になっていることがエコー検査でわかりました。ただ、どの時点でその様な構造変化を示し始めたのか?は解りませんでした。

つぎの動画は手術後の状態です。あまり手術跡もわかりませんが、切除前より活動的になったと報告がありました。今回の様に手術前の病理検査では安全な結果だとしても、ごく稀に腫瘤本来の病変が突然明瞭になることがあるようです。「変だな?」と思ったら動物病院の先生に確認すると良いでしょう。

高齢動物の腫瘤切除

この症例は、14歳の雑種の雄犬です。「気付いたら後足が赤かった。」という主訴で来院されました。よく見るとウズラの卵より若干大きいくらいの腫瘤があり、その表面が自壊して出血しています。前述の通り血液検査後に手術になりました。写真は手術前の患部です。

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これが手術終了後の写真です。少し大きめに腫瘤を摘出するので、傷口もこれくらいの大きさになります。

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高齢による影響だと思われますが、麻酔の覚醒がやや遅く心配もしましたが、手術当日から食欲もあり翌日退院しました。手術1時間後の様子です。

次の写真が抜糸直後の患部です。お陰様でエリザベスカラーを外して帰宅することができました。抜糸時

肛門周囲腺腫

犬の肛門周囲腺腫瘤は、精巣ホルモンが誘発して発生する肛門部に形成される腫瘍です。そのため、シニア世代の去勢していない犬に多く発生します。下の症例も、11歳の未去勢のミニチュアダックスフントです。以前からここに腫瘤があったのは気づいていましたが、色々な都合で手術はしていませんでした。ところが、最近ではこの部分から出血するとのことで摘出することになりました。

下の写真では、肛門の左下に腫瘤を認めます。

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手術は、最初に去勢手術を行ったあとに肛門周囲腺腫の摘出手術をおこないます。次の写真は切除後の写真です。切除後も普通に排便できます。念のために、当日は点滴を続けて翌日退院しました。

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