腫瘍組織の病理診断について

切除した腫瘍組織の病理組織診断について

切除した腫瘍組織の病理組織診断は行う必要がありますか?という質問を受けることがあります。最終的に組織診断を行うか?否か?は飼主さんが決めることですが、そのメリットについてここで記載しようと思います。

先ず第一のメリットは組織診断が決まる可能性が高いことです。診断が決まるという事は、切除組織が腫瘍なのか?腫瘍ではないのか?良性なのか?悪性なのか?ということが解ります。第二のメリットは切除した組織が腫瘍を全て取りきれているのか?いないのか?わかることです。この点については、バイオプシー検査ではわかりません。

悪性腫瘍は完全に切除していても肺や肝臓などに遠隔転移を起こす可能性が残り、不完全切除の場合には同じ場所に再発する可能性が高くなります。私の少ない経験でも切除して1か月に再発した腫瘍もあれば3年後に再発した症例もあります。 逆に良性腫瘍で完全に切除していれば、その後に問題となるケースは限りなく低くなると言えます。 診断名が決まることで、抗がん剤が治療として効果的なのか?でないのか?など切除後の治療の選択肢が増えることも期待されます。

以上の理由により当院では切除組織の病理組織検査を飼主の皆様へ勧めています。

先日、こんなケースがありました。診断は悪性腫瘍、血管やリンパ管への脈管内浸潤あり、しかし悪性腫瘍は完全に切除している。と病理診断が返却されました。しかし、1か月後に同じ場所へ再発していました。悪性腫瘍は切除しきれていても油断できませんね。この場合は、高度医療を行う2次病院へ依頼し、さらなる拡大切除を行うか?拡大切除後にさらに放射線治療や抗癌治療を行う必要があるかもしれませんね。

雄犬の尿道結石摘出手術

今回は、雄犬の尿道結石摘出手術です。雄の尿道はメスの尿道に比べて細く長いことが知られています。また、その尿道径は細いため、小さな結石により尿道が閉塞してしまう可能性があります。

結石は腎臓や膀胱で形成され膀胱に位置している時は良いのですが、尿道に結石が入ると外尿道口に到達するまでの間に結石が尿道から動かなくなって閉塞を引起します。因みに尿道は出口(外尿道口)に向かうに従い細くなるので、小さい結石は膀胱を出てから遠くで、大きい結石は膀胱の近くで閉塞することになります。

今回の症例は膀胱で形成されていた結石が尿道に入り、遠位で閉塞していました。尿道閉塞を起こしたこの症例は、膀胱に尿が充満した状態で、尿が少しづつですが外尿道口から漏れて出ている状態が数日続いていたとのことでした。次のレントゲン写真は手術前の写真で、陰茎骨の所の尿道に結石が砂利状と玉状に存在して閉塞しているのがわかります。膀胱は前述のとおり膨満しているのがわかります。(前立腺も肥大しています。)

次の写真は術後の状態で、閉塞していた結石が取り除かれているのがわかります。

完全に閉塞してしまうと、老廃物が尿として排出されないので腎不全の状態となってしまいます。下の写真は閉塞した遠位尿道を切開した手術後の状態です。

次の写真が抜糸後の状態です。現在では、普通に生活しているとのことでした。

疼痛管理について

様々な手術が行われていますが、積極的に行われるようになった疼痛緩和療法は、飛躍的に進歩した分野なのではないでしょうか?どんな手術でも痛みを伴う事は想像に難くありません。動物病院でごく当たり前に行われている去勢手術や避妊手術でも、かなりの痛みを伴うに違いないと思います。

動物は痛みを感じると部屋の隅でじっとしていたり、震えたり、食欲が減退して、元気がなくなったりします。他にも色々な症状が知られていて、普段と異なる行動をすることが多いようです。一方で、痛みに対して感受性も個体により様々な印象を受けるのも事実です。

では、手術でペットがあまり痛みを感じないようにするにはどの様にすれば良いのでしょうか?それは、手術前から疼痛緩和を始める事であり、手術中も、さらに手術後もそれを実施することです。なるべく痛みの程度を軽くして、その時間を少なくすることを目的にしています。手術前から始めることで、手術中の痛みを軽減し、全身麻酔の濃度を減らすことが出来ます。手術中・手術後も継続することで、一般生活への回復が早くなることが期待されます。手術で使用する疼痛緩和治療薬は、異なる部位に異なる作用時間で作用することで効果的に鎮痛効果が得られます。

また、疼痛緩和治療薬も良い面ばかりではありません。同時にその副作用を補う薬を用いたり、夫々の個体の健康状態に合った鎮痛薬を使用するのが最善であると考えます。

電気メス機械を導入しました。

今回は電気メスの機械を導入した事をご報告します。当院は昨年まで電気メスを使用していませんでしたが、本年より電気メスを導入しました。電気メスは止血機能に優れた外科機器です。

昨年までは、出血すると外科用縫合糸で縫合して止血していましたが、電気メスの導入によりメス先で出血部位に接触することにより止血できます。特に次の症例の様に出血箇所が多い腫瘤の切除などでは手術時間の短縮が期待できます。他にも色々な機能があり便利です。

次は手術終了時の写真です。手術終了時では電気メスを使用しても使用しなくても見た目に変化はありません。抜糸までの日数にも変化はありません。

ただ単純に手術時間が短縮できることを目的に電気メスを導入しました。上の症例も16歳でしたのでなるべく出血なく、手術時間が短くなることをペットも飼主さんも私も望んでいることは確かでしょう。手術後から以前にも増して食欲がでたことをお聞きしたら、みんな嬉しくなってしまいますね。下の写真は抜糸時の写真です。

 

高齢猫の麻酔について

今回は高齢猫の麻酔についての話です。猫に限らず、高齢の動物は若い動物と比較して何が違うのか?一つ目は、何か基礎疾患をもっていることが多い事。二つ目は、各臓器の予備能力が低下している事ではないでしょうか? 予備能力とは循環機能や呼吸機能、肝臓や腎臓の代謝機能などが、年齢と共にその機能が減少して、若い個体に比較して変化に対応する能力が低下していることを意味しています。

麻酔をかける前には、事前に身体検査 血液検査 レントゲン検査 エコー検査などを行います。ただし、様々な理由でこれらの検査をできない症例もいます。これらの検査で確認された基礎疾患の治療をおこないます。あるいは、基礎疾患の重症度などにより麻酔を用いることができない症例もいるかも知れません。

様々な要因を考慮して獣医師は麻酔薬を選択することになります。また、体重当たりの麻酔量も少し減少するなどの工夫も必要かもしれません。一般的に老齢動物の麻酔薬の用量は減少して、麻酔からの回復時間は延長します。使用する麻酔薬には夫々良い面と悪い面がありますので、どの麻酔薬を用いるにしても、目的をもって使用するのが良いと思われます。

その他に老齢動物は循環血液量が減少しているので輸液を行います。また、体温低下が起こり易いため、保温マットを利用するなどの準備も必要です。

次の症例は19歳の避妊メスの猫です。体表に腫瘤ができ、その表面は脱毛と潰瘍を呈していました。猫はその部位を舐め続けるため少し出血して生活の質の低下につながるため手術を依頼しました。 基礎疾患は慢性腎不全で普段より内服薬を投薬していました。

手術は無事終了して、手術後に血液検査異常がないことを確認して終了となりました。この症例は体に触れられることを極端に嫌うため、術前にエコー検査などはできませんでしたが、無事に終了することができました。次の動画は手術後1週間して抜糸の時の状態です。飼主さんもご飯を変わりなく食べているとのことでしたので安心しました。

肉球の手術

今日は肉球の手術についてのお話です。肉球は地面からのショックを吸収して摩擦に耐えうる最も強靭な組織と言えます。その肉球に腫瘍ができたり、裂傷や病変が存在する場合に肉球の手術が適応になりますが、強靭な組織がゆえ裂傷なども非常に稀であると認識しています。

肉球と言っても前肢には各指の指球と真ん中の大きな掌球、手根球の6個の肉球が存在しています。後肢にも各指の趾球と真ん中の足底球の5個の肉球が存在しています。

今回は肉球の裂傷についてのレポートです。肉球は他の皮膚と同様に縫合しますが、肉球は自身の体重の負荷により適切に縫合しても離開しやすい特徴があります。そのため、適切に縫合しても副子がないと裂開する可能性が高くなるため、副子が必要になります。ただし、ここでまた一つ問題が出てきます。体格が大きく、活動性の高い犬ほど副子を管理するのが大変になってきます。

次の症例はボーダーコリーの7か月で、第三指球を大きく深く裂傷してしまいました。つぎの動画は手術直後の状態です。すでに左前肢にオレンジ色の副子を装着しているのがわかります。

手術後からは1日間隔で副子を外して、患部を確認して消毒し副子を装着する作業を繰返します。一口に副子と言っても観察、消毒、ガーゼ、包帯、アルミ副子 それを覆うベットラップとかなり大変な作業です。次の動画は10日後に状態です。特に変わりませんが、副子にも慣れているのがわかります。

手術後12日目で抜糸を行い、無事に退院されました。骨折ではありませんが、副子で生活することや、それを管理するのはペットにとってもスタッフにとっても大変でした。お大事にして下さい。

犬の臍ヘルニアについて

臍ヘルニアは、通常胎生期にある臍輪の開口部が出生時に閉鎖して臍部の臍部の瘢痕として残ころ、開口したままの状態です。原因は明らかになっていませんが、多くは遺伝性であることが知られ先天性がほとんどのようです。

ここで紹介する症例も家に迎えたときにはすでに臍ヘルニアの説明を受けていたとことでした。つまり、犬のお臍を見たとき少し盛り上がっているから直ぐにわかります。この盛り上がりは、腹腔内の脂肪が臍部から皮下に出ているためです。もちろん、開口部が大きければ腸などの臓器が出てしまうことになります。つぎの写真は手術直後の状態です。

今回は去勢手術と一緒に臍ヘルニアも閉じることにしました。手術は奇麗に臍ヘルニア輪を確認して開口部を閉じる作業です。いつも通り1週間後に抜糸をして終了です。つぎの写真は退院時にはシールを貼って帰宅します。

つぎの写真は抜糸後の写真です。これで終了です。

こんばんは、谷村です。本日は、猫の胃切開の手術です。文字通り胃を開ける手術です。胃を開けるにはそれなりの理由があるのですが、最近よく目にするのは女性の髪を束ねるゴムを多量に食べてしまう猫です。

何故か分かりませんが、少量ではなく、いつも多量です。猫のお腹を触診している時に、胃の中に独特の硬い異物に触れます。これはすぐに開腹した方がよいなと感じるものです。

他の異物の場合はこの様に胃を触診して気づくことは殆どありません。先日もこの様な独特の胃の触知のためにすぐに開腹したかったのですが、血液検査にて腎臓酵素値の上昇のために1日点滴を行ってから手術をしました。

下の写真は1頭の猫の胃の中にあった多量のヘアバンドです。胃はヘアバンドでパンパンに膨らんだ状態でした。定法通りに胃の血管の走行の少ない場所を必要最低限の長さで切開します。すべて取り出したら胃を閉じます。お腹の中を生理食塩水で良く洗い閉腹して終了です。因みにこの症例は空腸でもヘアバンドが閉塞しており小腸も切開しています。

手術後は2日間入院して退院することになりました。今は元気に過ごしています。他のヘアバンドを食べた症例も似たり寄ったりの量が胃から取り出しました。その後もまた、食べないか?心配になります。

他にも誤飲にはゴム製品や紐などが多く見受けられます。これらの異物は口腔と胃あるいは胃と小腸 あるいは口腔と小腸で繋がっていることも多く、どこで切開するか?も重要なポイントかもしれませんね。

手術後は点滴して飲水から初めて、少量のご飯から徐々に食事の量を増やします。問題がなければ日に日に元気と食欲が出てきます。

犬の胃切開手術

今日は、胃切開手術です。主訴は「帰宅後、嘔吐をして元気もない。」との事でした。異物を食べる癖はありますか?との質問も飼主さんは異物は食べないとのことでした。レントゲン撮影をしてみると、胃内にガスが軽度に貯留している他に、胃幽門部付近に丸い不透過像を認めました。

2日目のレントゲン検査では、さらに胃内にガスが重度に貯留していました。所謂、胃拡張の状態です。血液検査では異常は認められませんでした。エコー検査を追加して、胃内の貯留ガスを除去して静脈点滴を行いました。

3日目はさらに胃内ガスは貯留していました。やはり、不自然なため消化管造影検査をしてみると胃が180℃回転している胃捻転の状態になっていました。この状態になると流延を示し、とても苦しそうな表情をします。

この症例では、すぐに自然と胃捻転は戻りました。しかし、再発の危険性もあるため、飼主さんに了承を得て緊急開腹手術を行う運びになりました。

開腹すると、胃の出口(幽門部)にスーパーボールががっちり嵌っていました。スーパーボールを胃の中央に移動して胃切開を行おうと試みましたが、まったく動きませんので幽門部で切開することにしました。次の写真が摘出したスーパーボールです。

このスーパーボールの閉塞は他の異物と少しことなり、強烈な症状がでることが多いような気がします。胃捻転や痙攣など非常に苦しくて痛がるような症状を示すこともあります。これは、スーパーボールが消化管に隙間なく閉塞する状態、つまり完全閉塞するためと考えます。また、エコー検査では、他の異物と違い、スーパーボールは音響陰影を示さないことも知られています。

また、他にもプラスチックやトウモロコシの芯 栗 おもちゃ ゴム リードや縫い針 画鋲 靴下 マスク タオル 雑巾など色々なものを食べて来院した犬を経験しております。これら全てが胃切開の適応ではありませんが、様々なものを食べる可能性があり十分に注意する必要があります。

摘出終了後は、合併症がなければ他の異物摘出と同様に時間の経過とともに改善します。次の動画は手術2日目の状態です。

手術6日目に抜糸が終了して退院になりました。食事を徐々に増やしているため、お腹が空いている状態ですので、異物を食べないよう注意が必要です。

 

 

 

 

上眼瞼の腫瘤

今日は瞼にできた腫瘤のお話です。犬も高齢化が進み、上眼瞼に腫瘤(イボ)があるのをよく見かけるようになりました。ここにイボができると眼球内の結膜は赤く充血して眼脂が多く出るようになりますね。 当然、飼主さんはペットの眼が痛々しく見えるため、眼の上の腫瘤を切除するか?しないか?迷います。 迷う原因は高齢のため全身麻酔ができるか?ということになります。

以前のレポートでも「高齢動物の麻酔」でお話ししたように全身麻酔前に各種検査を行って慎重に判断しますが、絶対に安全な麻酔薬はありませんので、最終的に切除するしない?の判断は飼主さんに委ねられます。

つぎの症例はパグで15歳です。上眼瞼に米粒大の腫瘤を認めます。やはり、眼球結膜は充血して眼脂も多くでます。眼の周囲を触れると特に嫌がる態度を示します。飼主さんも生活の質を考慮して全身麻酔のリスクを承知したうえで依頼をされました。次の動画は切除前の状態です。

次の写真が切除後1週間してからの状態です。眼がはっきりとして輝いているように見えますね。切除後は、充血や不快感から解放されたとのことでした。切除部位に1糸を認めますが、抜糸の必要のない吸収糸を使用しています。傷口の状態を確認して終了となります。