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疼痛管理について

様々な手術が行われていますが、積極的に行われるようになった疼痛緩和療法は、飛躍的に進歩した分野なのではないでしょうか?どんな手術でも痛みを伴う事は想像に難くありません。動物病院でごく当たり前に行われている去勢手術や避妊手術でも、かなりの痛みを伴うに違いないと思います。

動物は痛みを感じると部屋の隅でじっとしていたり、震えたり、食欲が減退して、元気がなくなったりします。他にも色々な症状が知られていて、普段と異なる行動をすることが多いようです。一方で、痛みに対して感受性も個体により様々な印象を受けるのも事実です。

では、手術でペットがあまり痛みを感じないようにするにはどの様にすれば良いのでしょうか?それは、手術前から疼痛緩和を始める事であり、手術中も、さらに手術後もそれを実施することです。なるべく痛みの程度を軽くして、その時間を少なくすることを目的にしています。手術前から始めることで、手術中の痛みを軽減し、全身麻酔の濃度を減らすことが出来ます。手術中・手術後も継続することで、一般生活への回復が早くなることが期待されます。手術で使用する疼痛緩和治療薬は、異なる部位に異なる作用時間で作用することで効果的に鎮痛効果が得られます。

また、疼痛緩和治療薬も良い面ばかりではありません。同時にその副作用を補う薬を用いたり、夫々の個体の健康状態に合った鎮痛薬を使用するのが最善であると考えます。

電気メス機械を導入しました。

今回は電気メスの機械を導入した事をご報告します。当院は昨年まで電気メスを使用していませんでしたが、本年より電気メスを導入しました。電気メスは止血機能に優れた外科機器です。

昨年までは、出血すると外科用縫合糸で縫合して止血していましたが、電気メスの導入によりメス先で出血部位に接触することにより止血できます。特に次の症例の様に出血箇所が多い腫瘤の切除などでは手術時間の短縮が期待できます。他にも色々な機能があり便利です。

次は手術終了時の写真です。手術終了時では電気メスを使用しても使用しなくても見た目に変化はありません。抜糸までの日数にも変化はありません。

ただ単純に手術時間が短縮できることを目的に電気メスを導入しました。上の症例も16歳でしたのでなるべく出血なく、手術時間が短くなることをペットも飼主さんも私も望んでいることは確かでしょう。手術後から以前にも増して食欲がでたことをお聞きしたら、みんな嬉しくなってしまいますね。下の写真は抜糸時の写真です。

 

肉球の手術

今日は肉球の手術についてのお話です。肉球は地面からのショックを吸収して摩擦に耐えうる最も強靭な組織と言えます。その肉球に腫瘍ができたり、裂傷や病変が存在する場合に肉球の手術が適応になりますが、強靭な組織がゆえ裂傷なども非常に稀であると認識しています。

肉球と言っても前肢には各指の指球と真ん中の大きな掌球、手根球の6個の肉球が存在しています。後肢にも各指の趾球と真ん中の足底球の5個の肉球が存在しています。

今回は肉球の裂傷についてのレポートです。肉球は他の皮膚と同様に縫合しますが、肉球は自身の体重の負荷により適切に縫合しても離開しやすい特徴があります。そのため、適切に縫合しても副子がないと裂開する可能性が高くなるため、副子が必要になります。ただし、ここでまた一つ問題が出てきます。体格が大きく、活動性の高い犬ほど副子を管理するのが大変になってきます。

次の症例はボーダーコリーの7か月で、第三指球を大きく深く裂傷してしまいました。つぎの動画は手術直後の状態です。すでに左前肢にオレンジ色の副子を装着しているのがわかります。

手術後からは1日間隔で副子を外して、患部を確認して消毒し副子を装着する作業を繰返します。一口に副子と言っても観察、消毒、ガーゼ、包帯、アルミ副子 それを覆うベットラップとかなり大変な作業です。次の動画は10日後に状態です。特に変わりませんが、副子にも慣れているのがわかります。

手術後12日目で抜糸を行い、無事に退院されました。骨折ではありませんが、副子で生活することや、それを管理するのはペットにとってもスタッフにとっても大変でした。お大事にして下さい。

犬の臍ヘルニアについて

臍ヘルニアは、通常胎生期にある臍輪の開口部が出生時に閉鎖して臍部の臍部の瘢痕として残ころ、開口したままの状態です。原因は明らかになっていませんが、多くは遺伝性であることが知られ先天性がほとんどのようです。

ここで紹介する症例も家に迎えたときにはすでに臍ヘルニアの説明を受けていたとことでした。つまり、犬のお臍を見たとき少し盛り上がっているから直ぐにわかります。この盛り上がりは、腹腔内の脂肪が臍部から皮下に出ているためです。もちろん、開口部が大きければ腸などの臓器が出てしまうことになります。つぎの写真は手術直後の状態です。

今回は去勢手術と一緒に臍ヘルニアも閉じることにしました。手術は奇麗に臍ヘルニア輪を確認して開口部を閉じる作業です。いつも通り1週間後に抜糸をして終了です。つぎの写真は退院時にはシールを貼って帰宅します。

つぎの写真は抜糸後の写真です。これで終了です。

犬の胃切開手術

今日は、胃切開手術です。主訴は「帰宅後、嘔吐をして元気もない。」との事でした。異物を食べる癖はありますか?との質問も飼主さんは異物は食べないとのことでした。レントゲン撮影をしてみると、胃内にガスが軽度に貯留している他に、胃幽門部付近に丸い不透過像を認めました。

2日目のレントゲン検査では、さらに胃内にガスが重度に貯留していました。所謂、胃拡張の状態です。血液検査では異常は認められませんでした。エコー検査を追加して、胃内の貯留ガスを除去して静脈点滴を行いました。

3日目はさらに胃内ガスは貯留していました。やはり、不自然なため消化管造影検査をしてみると胃が180℃回転している胃捻転の状態になっていました。この状態になると流延を示し、とても苦しそうな表情をします。

この症例では、すぐに自然と胃捻転は戻りました。しかし、再発の危険性もあるため、飼主さんに了承を得て緊急開腹手術を行う運びになりました。

開腹すると、胃の出口(幽門部)にスーパーボールががっちり嵌っていました。スーパーボールを胃の中央に移動して胃切開を行おうと試みましたが、まったく動きませんので幽門部で切開することにしました。次の写真が摘出したスーパーボールです。

このスーパーボールの閉塞は他の異物と少しことなり、強烈な症状がでることが多いような気がします。胃捻転や痙攣など非常に苦しくて痛がるような症状を示すこともあります。これは、スーパーボールが消化管に隙間なく閉塞する状態、つまり完全閉塞するためと考えます。また、エコー検査では、他の異物と違い、スーパーボールは音響陰影を示さないことも知られています。

また、他にもプラスチックやトウモロコシの芯 栗 おもちゃ ゴム リードや縫い針 画鋲 靴下 マスク タオル 雑巾など色々なものを食べて来院した犬を経験しております。これら全てが胃切開の適応ではありませんが、様々なものを食べる可能性があり十分に注意する必要があります。

摘出終了後は、合併症がなければ他の異物摘出と同様に時間の経過とともに改善します。次の動画は手術2日目の状態です。

手術6日目に抜糸が終了して退院になりました。食事を徐々に増やしているため、お腹が空いている状態ですので、異物を食べないよう注意が必要です。

 

 

 

 

上眼瞼の腫瘤

今日は瞼にできた腫瘤のお話です。犬も高齢化が進み、上眼瞼に腫瘤(イボ)があるのをよく見かけるようになりました。ここにイボができると眼球内の結膜は赤く充血して眼脂が多く出るようになりますね。 当然、飼主さんはペットの眼が痛々しく見えるため、眼の上の腫瘤を切除するか?しないか?迷います。 迷う原因は高齢のため全身麻酔ができるか?ということになります。

以前のレポートでも「高齢動物の麻酔」でお話ししたように全身麻酔前に各種検査を行って慎重に判断しますが、絶対に安全な麻酔薬はありませんので、最終的に切除するしない?の判断は飼主さんに委ねられます。

つぎの症例はパグで15歳です。上眼瞼に米粒大の腫瘤を認めます。やはり、眼球結膜は充血して眼脂も多くでます。眼の周囲を触れると特に嫌がる態度を示します。飼主さんも生活の質を考慮して全身麻酔のリスクを承知したうえで依頼をされました。次の動画は切除前の状態です。

次の写真が切除後1週間してからの状態です。眼がはっきりとして輝いているように見えますね。切除後は、充血や不快感から解放されたとのことでした。切除部位に1糸を認めますが、抜糸の必要のない吸収糸を使用しています。傷口の状態を確認して終了となります。

猫の鎖肛について

鎖肛について

今回のテーマは「鎖肛」です。あまり聞き慣れない言葉かもしれません。肛門と直腸の連続性を発生過程の中で失った先天的疾患です。しかし、この病気を持つ子は発育過程の中で死に至るため、その発生率は良く解っていません。 鎖肛には肛門膜と直腸の位置関係によりⅠ~Ⅲ型に病型分類されています。

飼主さんは、「排便したいがでていない。」との主訴で来院されます。確かに症例の肛門を認められません。症例は猫で体重は750gくらいでしょうか? 「えっ、そんなに大きくなるの?」とお感じになった方もいるかもしれません。

この症例は、直腸と膣の間に瘻管(トンネル)が形成されていたため、液状の糞便を排泄していたことが推察されます。そのため、ここまで大きくなりましたが、この月齢になると食欲も増し、排便も瘻管から排出される大きさや硬さではなくなった為症状が顕在化したと考えられます。

次の写真は手術直後の写真です。

手術後数日間お預かりして排便と排尿が出るのを確認してから退院となりました。自力で排便コントロールができたので安心しました。因みに、私はこの鎖肛を猫で2度診ましたが、犬では診たことがありません。

 

 

高齢動物の麻酔について

一般的な外科処置をするときにどうしても切り離せないのが全身麻酔が心配の種になることが多いと思われます。当院では、全身麻酔をする前には基本的に血液検査と胸部レントゲン検査を行っています。尿検査やエコー検査なども症例によっては追加することもあります。 その一方でペットが暴れて検査できない場合や費用的な面で検査をしないで麻酔をせざるおえないケースもあることも事実です。

今回は16歳の老犬の歯科処置をする機会を頂いたのでご紹介したいと思います。主訴は左下眼瞼の排膿です。膿は臼歯の歯根膿瘍が原因と思われます。身体検査では心雑音と腰が曲がり、首が少し上げにくいなどの症状を認めました。 皆さんがこの子の飼主さんでしたら全身麻酔をかけて歯科処置をしますか? 少し気が引けてしまいそうですよね。私も患者の立場なら同じです。

しかし、このまま抗生物質を投薬し続けて、この状態で終えるのも気が滅入ります。なので、血液検査と胸部レントゲン検査をして重大な問題がなければ、歯科処置をすることに決まりました。麻酔をする飼主さん全員に説明することですが、それでも絶対の安全を保障するものではないと説明を加えさせて頂きました。次の写真が歯科処置前の写真です。

次の写真も歯科処置前の写真です。歯石が歯を覆っていますね。

次が歯科処置中の写真です。上顎の犬歯と臼歯は抜歯してある状態です。

歯科処置の翌日には次の動画のようにしっかり食事をしていますね。

次の写真が歯科処置、1週間後の写真です。目元は綺麗になって、歯科処置をして大変よかったと思いました。高齢動物への全身麻酔はリスクもありますが、心配し過ぎて処置しない選択肢と同じくらい安全性を確認したうえで行う処置も大切だと考えています。

眼瞼縫合

眼瞼縫合は意外と機会の多い処置です。その多くが犬同士のケンカなどで眼球が亜脱臼した場合や眼球が突出したバグやフレンチブルドックなどの犬種で角膜潰瘍を起こした場合などにも行われます。特に眼球が突出した場合には、来院してすぐに処置に移ることになります。

内眼瞼側をすこし開けて、上眼瞼と下眼瞼を縫い合わせる処置になります。この時用いる縫合糸はすごく細いものになります。処置終了後には、エリザベスカラーを着用します。

自宅では隙間のある内眼瞼に点眼してもらい、それと内服薬を投薬して頂いています。 この処置は眼瞼を閉鎖するため眼球がほぼ外から見えなくなりますので時折、来院して頂いて眼の状態を確認する必要があります。10日から2週間後に抜糸をして眼瞼を開くことになります。

下の症例は角膜に潰瘍が出来てしまったため、眼瞼縫合を行いました。次の写真は眼瞼縫合を終えた直後の眼の状態です。解りにくいですが、内眼瞼が少し開いていますね。ここから点眼薬を投薬します。飼主さんも慣れるまで時間がかかるかもしれませんね。

ウサギの膀胱結石摘出手術

こんにちは、今回はウサギの膀胱結石です。ウサギの尿の中には、カルシウム系結晶が正常でも存在しており、スムーズに排尿されています。しかし、結晶が結石へと大きくなり排出されない場合には血尿や頻尿、排尿姿勢の持続などの症状が現れ問題となります。

今回の症例は、3歳のメスのウサギです。主訴は、「血尿が止まらない。」とのことでした。確かに、排尿の意思とは無関係に血尿が垂れています。レントゲン写真で膀胱内に結石を認めました。

ここまで結石が大きくなると自然排出される困難で、症状が持続していることから開腹して膀胱結石を摘出することになりました。手術前の血液検査を行い、静脈点滴をして手術になりました。下の写真が実際の結石です。

手術はスムーズに終了したのですが、手術後の血液検査で腎臓の機能が低下していることが解り、暫く点滴を続けました。翌日には腎臓の機能も戻り、次の動画の様に食事をとるようになりました。

今後は、食事面などを含め改善と注意が必要でしょう。