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猫の横隔膜ヘルニアの手術

猫の横隔膜ヘルニアは、交通事故など突発的にお腹に圧力がかかり、胸腔と腹腔を分ける横隔膜が破けてしまう疾患です。このため、本来お腹にある肝臓や胃、小腸などが胸腔に移動してしまい、肺が充分に膨らまない状態になります。次の動画は、手術前の状態です。呼吸の回数が早く、お腹だけが動ているように見えます。

次の写真は、この症例にバリウムを投与して30分後に撮影した胸部レントゲン像です。横隔膜ヘルニアであることを確認しました。胸腔に胃や小腸の大部分が入っているので、大きな穴が開いてることが想像できます。M2470005

飼主さんは、「猫がやっとのこと帰ってきて、ずっと寝ている。随分と痩せてしまった。」と言って来院されました。これは、消化管の殆どが胸腔に移動しまったためにお腹がぺちゃんこになり、痩せて見えたのでしょう。 手術は、胸に移動してしまった消化管などの臓器を腹腔に戻した後、破れた横隔膜を縫い合わせる作業となります。結果、胸と腹が分けられます。次の写真が、手術後の胸部レントゲンです。胸腔内には抜気と排液のためのカテーテルが入っています。

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実際、手術ではT字状に横隔膜が破れていて、胸腔に胃・脾臓・小腸・肝臓が入り込んでいました。それら臓器で圧迫されていた左側の肺は、小さいまま退縮して拡張しませんでしたが、下の動画の様に手術3日目には呼吸も楽になり、排液と抜気も無くなりました。胸も軽くなったので上体を起こしていますね。

手術6日後の状態です。胸のカテーテルが取れて、胸郭が広がり安定した呼吸をしているのがわかります。

手術7日目の状態です。抜糸してエリザベスカラーも取れて、普通の猫と変わりませんね。

猫の体表腫瘤切除手術

一般論

猫の体表腫瘤ですが、つまり猫の皮膚表面にできた腫瘍についてのお話です。様々な場所に様々な大きさの腫瘤を飼主さんは見つけられて来院されます。病理検査をすると炎症性病変であったり、良性腫瘍や過形成、あるいは悪性腫瘍の場合など様々です。

当院では基本的に腫瘤を確認すると、針で腫瘤を指して細胞を採取して顕微鏡で確認します。大まかに①様子をみてよいもの②病理検査に判断をゆだねるもの③すぐに切除した方がよいものに分かれます。それにより方針が異なってきます。

各症例

症例1

次の症例は「陰嚢部をよくなめている。」との主訴で来院されました。確認すると腫瘤は陰嚢に形成されて表面が赤く、脱毛して軽度に潰瘍を呈していました。内服薬で投薬しましたが、その大きさに変化がなかったため、針で腫瘤を指して細胞を採取して標本を作製しました。顕微鏡を確認すると「肥満細胞腫」の可能性が高いため③のすぐに切除した方がよいため、飼主さんとご相談したうえで切除する方針にきまりました。

切除した組織は、やはり病理組織検査に依頼することで、より詳細な情報を得ることができてその情報をもとに切除後の治療方針や予後などを説明することになります。次の写真は切除して2週間後の写真です。

定期に経過観察することになりました。抗がん剤治療などもありますが、選択肢の中から飼主さんが最も良いと考えた治療方針が最適と考えています。

症例2

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私個人の経験では、犬に比べてその発生率は低い様に思われますが、発生すると悪性傾向が強い印象があります。手術内容は、定法にしたがい、腫瘤周囲から切除する作業になります。 切除した腫瘤は、病理組織診断により良性なのか悪性なのか、しっかり切除できているのか?検査します。

症例は、15歳のオス猫です。初めて気付いたのは2年前で、最近さらに大きくなり、皮膚表面が自壊してきたとの主訴で来院されました。すでに発生部位などは解りませんが、生活の質を考慮して切除することになりました。下の動画の様に、腫瘤は腰から下に、非常に大きいのがわかります。

下の写真が切除した腫瘤です。大きさは20×10×10cmで重さが1.4キログラムもありました。M2100015

次の動画が、手術直後の状態です。年齢も高齢で、麻酔時間も長かったわりに状態が落着いていたので助かりました。食欲と元気も手術3日目より徐々に出るようになりました。

次の動画が、手術5日後の状態です。通常、手術創は1本の線になりますが、今回の様に大きな腫瘤の場合には、手術創が少し複雑になります。

次の動画が約2か月後の動画です。一般健康状態や外貌からも全く問題ありませんが、触診をすると非常に小さいですが、悪性腫瘍の再発と思われる組織が確認されました。

猫の精巣捻転の手術

猫の精巣捻転も珍しい病気だと思われます。元気や食欲が無くなるなどの症状はありません。ただ、捻転している側の精巣が血液のうっ血により正常側の精巣よりも腫大している点が外貌よりわかる変化でした。

これが正常の精巣の写真です。通常の精巣は、左右均等で肌色から淡いピンク色を呈しています。

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次が捻転した精巣の写真です。写真では途中から捻じれているの解ります。捻じれている部分から暗赤色を呈していてます。捻転後の経過時間が長いものは切除するのが良いと思われます。捻転経過が長い症例では、血液のうっ滞により解剖構造が正常と比較して解りにくいので注意が必要です。

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手術後は、特に感染が起きていなければ去勢手術と変わりません。

猫の抜歯とスケーリング

猫の抜歯とスケーリングは、基本的には歯が痛くて食べれない、あるいは歯根膿瘍の時に行なうのが殆どです。処置は、最初にスケーリング処置を行い、歯そのものを評価します。痛みの原因となっている歯や近い将来に抜歯や痛みの原因となるような歯は抜歯をします。歯科処置は、予約していただいた日の午前中に来院していただき、当日あるいは翌日に帰宅します。

この症例は6歳の雄猫で、口腔内からの出血という主訴で来院されました。強い痛みはないのですが、口腔内を観察すると下の写真の様に、歯肉が浮き上がり歯肉が暗赤色に変色して強い歯周炎が残存している臼歯周囲に認められました。M1820004

当院では、歯科処置は全身麻酔下にておこないます。この猫は大人しかったので、血液検査と胸部レントゲン検査を行った後に全身麻酔をかけて歯科処置を行いました。口腔全体を確認した後に、超音波スケーラーにて歯に付着した汚れを取り除きます。この症例では、切歯と犬歯は非常に状態が良いにもかかわらず、臼歯の状態は歯根がすぐに確認できる歯、動揺している歯、既に歯が割れて一部が残っている歯など悪いものばかりでした。よって抜歯することになりました。次の写真が抜歯後です。M1830004

次の動画が歯科処置2時間後の状態です。麻酔覚醒直後は、少し左右に動揺していましたが、暫くすると動画の様に普通ななっています。落着いていましたので、当日退院しました。

猫の骨折整復手術

骨折の時の手術について

猫の骨折は、犬よりも稀ですが、時折認められます。多くは交通事故などの原因が多いのではないでしょうか?骨折部位はプレートとボルトあるいは、ピンにて固定をします。手術後は安静にして骨が癒合するのを待ちます。この時、猫では基本的にはギプスなどで保護しません。

プレート固定手術

大腿骨骨折(後肢)

次は実際の症例を見てみましょう。骨折の原因は布団の中にいる猫さんを気付かず踏んでしまったことが原因です。来院時には触診にてすぐに骨折しているのが解りました。その時のレントゲン写真です。骨折部位は右大腿骨遠位端で横骨折しているのが解ります。                                 

次の動画は翌日の状態です。やはり元気はありません。患肢を下にしています。

来院から3日目に手術を行いました。下の写真が手術時にプレートとボルトで固定している時の写真です。下に3つボルトを入れる必要があったので、膝の関節包も切開してあります。比較的スムーズに手術は終わりました。

次の動画が手術終了1時間後の動画です。やはりぐったりしていますね。でも、これはぐったりしているのではなく、落着いている状態です。鎮痛薬の効果がしっかり出ていると思われます。

次の動画が手術翌日の動画です。ご飯を出すと勢いよく食べ始めました。そして、手術した右後足も地面につけ始めていますね。先ほどの動画に比べてすごく元気が出ていることがわかります。個人的にはもう少し大人しくしていてほしいのですが・・・。退院がはやくなりそうですね。1週間もすると抜糸をしますので、しばしお待ちください。

手術後5日目に本日抜糸をしました。非常に元気にしております。

早いもので手術後1週間が経過しました。順調に過ごしております。

下腿骨骨折(後肢)

今回の症例は、興奮して手すりから落下したことが原因で下腿骨を骨折してしまいました。骨折時の写真です。

下腿骨は、その内側面は豊富な筋肉で覆われていないため、骨折部位を把握しやすい特徴があります。また、手術では内側よりアプローチして写真の様に内側面にプレートを固定します。

次の動画は手術2日後の状態です。すでに後肢を着地しています。食欲も出てきて元気に過ごしていることがわかります。早く退院できるといいですね。

手術6日目に抜糸しました。傷口に問題はなく、エリザベスカラーを外しました。

 

 

成長板骨折のためピンで固定したレントゲン写真

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手術後の様子

骨折手術から半年後の写真です。固定していたピンは既に役割を終えて、少し移動しいるのが解ります。何かの折に痛みが出る可能性があるので、次回にピンを抜く予定となりました。

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動画の写真の子が生後1年となり、使用していたピンを抜き、抜糸した時の写真です。こんなに立派になりました。M1750001

 

 

猫の後肢断脚手術

猫の後肢断脚手術は様々なケースで適応となると考えられます。 犬と異なり、悪性腫瘍が足に発生することは少ないと思われますが、その様な時に行なわれます。

当院の猫は,大腿骨の遠位端より化膿して腐っていたため、断脚手術の治療を選びました。この動画の様に後肢断脚手術後も活動性においては影響があまりないのが解ります。ちなみに断脚後7年が経過しています。

猫の異物摂取による腸閉塞手術

猫の異物摂取は、比較的よく認められる疾患です。私の今までの経験では、猫じゃらしの様なおもちゃ、紐、ゴムの塊、耳栓などが原因となって消化管を閉塞していました。 症状は、食欲不振と嘔吐、下痢などです。検査はレントゲン検査、エコー検査で確認した後に開腹手術となります。 下の写真は、十二指腸の開始部から造影剤が流れが悪くなっているのが解ります。 M1150001

お腹を開けてみると、やはり十二指腸の途中で猫じゃらしのおもちゃが詰まっていました。退院は手術4~5日後が殆んどです。異物摂取をする子は繰返すことが多いので注意が必要です。

 

次に実際の症例を見てみましょう。症例は、1歳の避妊メスのフォレスト・ジャン・ノルウェーキャットです。やはり、嘔吐と食欲、元気消失で来院されました。身体検査、レントゲン検査、血液検査、超音波検査にて異物摂取を疑い、開腹手術することなりました。 下の動画は、手術前の点滴をしている時の様子です。何だか元気が全くないのが解ります。

 

お腹を開けると小腸から太い紐が出てきました。M2220002

次の動画が手術翌日の様子です。手術前とは随分と異なり、機嫌もすこぶる良好なのが伝わってきます。

手術数日後から消化の良いごはんを少しづつ初めてきます。大変食欲が出てきているのがわかります。

猫の乳腺腫瘍

猫の乳腺腫瘍は、基本的に手術になります。乳腺腫瘍は、乳腺組織が腫瘍化したことで小豆くらいに大きくなると触れます。猫の乳腺腫瘍は、悪性の可能性が高いことが知られていて、乳腺付近にできた腫瘤は摘出して病理診断することが大切です。治療は外科手術と術後の抗がん剤治療が必要です。 予防は生後3回までの発情に避妊手術をすることで乳腺腫瘍の発生率を下げることができます。

次の症例は9歳のメス猫で避妊手術はしていません。最近、急速に腫瘤が大きくなってきたとの主訴で来院されました。この猫さんは飼主さんも触れることは大変で麻酔をかけて初めて確認できたのが次の写真です。かなり大きくなっているのがわかります。

やはり、発生部位を考慮してすぐに手術することになりました。次が手術直後の写真です。

手術の時には、明らかな胸の転移巣は確認できませんでしたが、十分注意が必要です。また、本来なら外科手術後の抗癌治療を選択するところですが、ペットの性質上難しいと思われる症例でした。ただし、現在も食欲はあり元気もいっぱいです。

 

下の写真は、乳腺腫瘍切除1か月後の猫の腹部写真です。この症例は第3~4乳腺間に小豆大の腫瘤ができました。場所を考慮すると、乳腺腫瘍の可能性が高く、第3と第4乳腺と大きく切除しました。やはり、病理診断の結果、この腫瘤は乳腺癌(悪性)でした。当院では、悪性の場合には、手術後に抗癌治療をお勧めしています。

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ちなみに、乳腺腫瘍の発生率を下げるには、なるべく発情が始まる若い時に避妊手術(外科・猫・避妊手術のページをご覧ください。)を行うことが重要です。乳腺腫瘍摘出手術は、切除する大きさにもよりますが、最低当日は入院して、落着いたら帰宅します。ご自宅では、エリザベスカラーの装着と内服薬を6~12日間投薬して頂きます。抜糸はケースにもよりますが、1週間前後となります。

このできものは?と不安になった場合には診察にご来院下さい。

 

 

 

猫の避妊手術

猫の避妊手術は、雌猫の左右の卵巣と子宮を切除する手術です。望まない妊娠を防止することや発情に伴う鳴声などの煩わしさあるいは卵巣や子宮の病気を予防する、あるいは乳腺腫瘍の発生率を下げる目的で行われています。 また、猫が発情している時は、子宮が太くなり、血管も拡張しています。そのため、避妊手術を行う際には安全上の理由で発情期を避けて予約を入れて頂くと良いでしょう。

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手術は開腹して、卵巣と子宮を切除して、閉腹します。当院では、手術当日は入院になり、翌日退院です。ご自宅では、帰宅後エリザベスカラーの着用と内服薬の投薬を行います。

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1週間後に抜糸となります。下の写真は抜糸直前の写真です。

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下の写真は抜糸終了時です。抜糸終了時にエリザベスカラーを外すことができます。

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手術は予約制ですので予めお電話下さい。予約時に手術当日の注意事項等をお伝えいたします。

 

 

猫の去勢手術

猫の去勢手術は、雄猫の左右の精巣を切除する手術です。雄ねこの発情を抑える、発情に関連した放浪、ケンカ、スプレー尿などの抑制効果を目的に行いますが、全て抑制できる訳ではありません。

通常の雄猫は下の写真の様に左右の精巣を1個づつ確認できます。この場合の去勢手術は、当日に退院でき、抜糸なども必要ありません。自宅では3日間化膿止めのお薬を投薬して頂きます。

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下の写真は、去勢手術終了後の写真です。陰嚢は膨らんでいますが、精巣は切除してあります。

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陰睾

一方で、割合は少ないのですが、時折見られるのが陰睾です。陰睾とは精巣が陰嚢まで下降せずにお腹の中に、あるいは陰嚢に下りる途中で止まってしまっていることがあります(陰睾)。

陰睾の去勢手術では、通常の去勢手術と異なり開腹したり、鼠経管から陰嚢まで下降する間で精巣を見つけて切除する必要があります。そのため、通常の去勢手術は上の写真の様に陰嚢に小さな切開のみなりますが、先ほどの説明の様に隠れた精巣を探すため下腹部に少し長めの切開を加えることになります。

皮膚切開の延長は、抜糸を必要として、1週間化膿止めの投薬が必要となることも通常の去勢手術と異なりますのでお気を付け下さい。なお、精巣が2つ陰嚢にあるのか?ないのか?がわからない場合は猫ちゃんと一緒に診察時間内にご来院下さい。